
はじめに
介護施設の経営において、「利用者から受け取る食費」と「実際に食事提供にかかるコスト」のギャップを正しく把握していますか?
「食事には毎月かなりのコストがかかっているのに、なぜ黒字にならないのか」という疑問を持ちながらも、制度の仕組みが複雑でよく理解できていないという管理者・事務担当の方は多くいます。
介護保険制度では食費の取り扱いが独特であり、「基準費用額」「実費負担」「補足給付(負担限度額認定)」といった仕組みを理解しないまま運営していると、食費関連で慢性的な赤字が続いてしまいます。
この記事では、食費・居住費に関する制度の基本を丁寧に整理した上で、施設が取れる現実的な対応策を解説します。
そもそも「ホテルコスト」とは何か
2005年以前の介護保険制度では、介護施設における食費・居住費は介護保険の給付対象に含まれていました。つまり、施設に入居することで食事代・部屋代も介護保険から支払われていたのです。
しかし「在宅で生活している人は自分で食費・家賃を払っているのに、施設入居者だけ公費で賄われるのは不公平」という考え方から、2005年の介護保険法改正で食費・居住費が給付対象から外れ、利用者の自己負担となりました。
これが「ホテルコスト」と呼ばれる仕組みです。ホテルに宿泊すれば宿泊代・食事代を自分で払うのと同じ考え方で、施設での居住・食事コストを利用者に負担してもらうという制度です。

基準費用額の仕組みと現状
国が定める「基準費用額」は、食費・居住費の標準的な金額の目安として設定されています。
| 項目 | 基準費用額(2024年度) |
|---|---|
| 食費 | 1,445円/日 |
| 居住費(多床室) | 915円/日 |
| 居住費(従来型個室) | 1,668円/日 |
| 居住費(ユニット型個室的多床室) | 1,668円/日 |
| 居住費(ユニット型個室) | 2,006円/日 |
施設はこの基準費用額を参考にしながら、独自に食費・居住費を設定できます。ただし実態として、多くの施設が基準費用額と同額またはそれ以下に設定せざるを得ない状況です(全国老施協調査では約54%の施設が食費を1,445円に設定)。
基準費用額の問題点
食費の基準費用額(1,445円)は2021年8月に1,392円から引き上げられて以来、据え置かれています。しかし物価・人件費の上昇により、実際の食事コストは上昇し続けています。
全国老施協の調査(2025年6月)では、特養の利用者1人1日あたりの実際の食費コストは1,787.6円(食材費972.8円+人件費814.8円)に達しており、基準費用額との差は約342円/人/日になっています。この差額分は施設側が吸収しており、定員80名の特養+短期施設では年間約1,000万円の赤字になるという全国老施協の試算もあります。
補足給付(負担限度額認定)制度とは
ホテルコスト(食費・居住費の自己負担)が導入されたことで、低所得の利用者が施設に入れなくなる事態を防ぐために設けられたのが「補足給付(特定入所者介護サービス費)」制度です。
制度の概要
本人・配偶者の課税状況・預貯金額等の要件を満たした場合、市区町村から「負担限度額認定証」が発行されます。これにより食費・居住費の自己負担が軽減され、軽減された差額分は介護保険から施設に給付されます。
負担限度額の段階
負担限度額は第1〜第4段階に分かれており、所得・資産の状況によって異なります。
| 段階 | 主な対象者の目安 | 食費の負担限度額(目安) |
|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護受給者等 | 300円/日 |
| 第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税・預貯金等が少ない方 | 390円/日 |
| 第3段階① | 世帯全員が市町村民税非課税・一定以上の収入がある方 | 650円/日 |
| 第3段階② | 同上・さらに収入が多い方 | 1,360円/日 |
| 第4段階 | 上記以外(基準費用額での自己負担) | 1,445円/日 |
※上記は介護保険施設(特養等)の場合の目安であり、2024年度時点の情報です。実際の金額は厚生労働省・市区町村の最新情報を確認してください。
施設側の対応
補足給付の対象者かどうかを正確に把握し、適切な額を請求・記録することが重要です。補足給付の対象なのに適切な請求をしていなければ、施設側が本来受け取れる給付を受け取れていないことになります。
入居時に「負担限度額認定証」の有無を確認し、有効期限(毎年8月更新)を管理する仕組みを整えましょう。
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食費コストと収入のギャップを把握する
施設として食費に関する収支を正確に把握するには、以下の整理が必要です。
収入側(利用者から受け取る食費)
- 第4段階利用者:基準費用額(1,445円)または施設独自設定の食費
- 補足給付対象者:負担限度額+補足給付(介護保険からの給付)の合計
コスト側(実際の食事提供コスト)
- 食材費+調理員人件費+光熱費+消耗品費
この収入とコストの差額が「食費の収支」です。前述の通り、多くの特養では収入よりコストが上回っており、赤字が発生しています。
施設が取れる現実的な対策
制度的な制約(基準費用額が上がりにくい)の中で、施設が自助努力で取れる対策を整理します。
対策①|食事コストそのものを下げる
最も直接的な対策です。
- 食材廃棄ロスの削減(1食単位発注・欠食管理の徹底)
- 調理員人件費の構造的な見直し(土日・夜勤帯への外部食材活用)
- 完全調理済みチルド食材の活用(食材費・人件費・廃棄ロス・光熱費を同時に削減)
対策②|補足給付の適切な請求・管理
補足給付の対象者を正確に把握し、認定証の有効期限管理を徹底することで、施設への給付を漏れなく受け取ります。毎年8月の更新時期に、対象となりうる利用者・家族に申請を促す案内を行うことも有効です。
対策③|制度改正・補助金情報の把握と活用
物価高騰対応の補助金・交付金(国・都道府県・市区町村が設けることがある)の情報をアンテナを張って収集し、活用できる制度は漏れなく利用します。全国老施協は食費基準費用額の引き上げを継続的に要望しており、制度改正があった際に速やかに対応できるよう、食費設定の見直し手順を事前に整理しておくことも重要です。
まとめ
介護施設の食費は「ホテルコスト」として利用者の自己負担となっていますが、実際の食事コストは基準費用額を大幅に上回っており、多くの施設で食費関連の赤字が生じています。
この構造的な問題に対処するには、①食事コスト自体の削減、②補足給付の適切な請求・管理、③補助金情報の活用という3つの対策を組み合わせることが重要です。
特に食事コストの削減においては、完全調理済みチルド食材の活用が人件費・廃棄ロス・光熱費を同時に改善できる手段として効果的です。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、制度・数値は2024〜2025年時点のものです。補足給付の要件・金額等は変更される場合があります。最新の制度・数値については厚生労働省や管轄行政にご確認ください。
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