
はじめに
「調理師がいないと、食事を提供してはいけないんじゃないか?」
小規模な老人ホームやグループホーム、デイサービスを運営していると、こうした疑問を持つ方は少なくありません。調理師の求人を出しても集まらない。今までいた調理師が辞めてしまった。そもそも最初から雇っていない──そんな施設で「このままでは違法になるのでは」と不安を感じている管理者・経営者の方もいるのではないでしょうか。
✅ 介護施設での食事提供に、調理師免許は法律上の必須要件ではありません。
ただし、何も手続きが不要というわけではなく、守るべきルールは存在します。この記事では、介護施設が食事を提供する際に本当に必要な資格・手続きを正確に整理し、調理師がいなくても安全・合法的に食事提供を続けるための方法を解説します。

「調理師免許が必要」は誤解
まず、よくある誤解を解いておきましょう。
調理師免許(調理師法に基づく国家資格)は、「調理師」という名称を名乗るために必要な資格であり、食事を調理・提供する行為そのものに必要な資格ではありません。
飲食店・介護施設を問わず、調理師免許がなくても食事を作って提供することは法律上問題ありません。これは飲食店の開業においても同様で、調理師免許は開業の必須要件にはなっていません。
では、介護施設が食事を提供する際に実際に求められるのは何でしょうか。
介護施設の食事提供に本当に必要なこと
① 食品衛生責任者の設置(最重要)
食品衛生法の改正により、令和3年(2021年)6月から、営業許可や届出の対象となるすべての食品取扱施設に「食品衛生責任者」を1名以上設置することが義務付けられました。介護施設で食事を提供する場合も、この食品衛生責任者の設置が必要です。
食品衛生責任者とは、施設における食品の衛生管理を担う責任者のことです。食中毒などのリスクを防ぐために、衛生管理の計画を立て、スタッフへの指導・教育を行う役割を担います。
▷ 食品衛生責任者になれる人
- 栄養士、調理師、製菓衛生師などの資格保持者
- 都道府県知事が指定する養成講習会の受講修了者
ポイント:調理師や栄養士の資格がなくても、養成講習会(通常1日程度)を受講・修了するだけで食品衛生責任者になれます。全国各地の食品衛生協会が定期的に開催しており、施設の管理者や介護スタッフが受講することも可能です。
② 営業届出または営業許可の申請
介護施設で自前調理を行う場合、管轄の保健所への営業届出が必要です(委託調理の場合は受託事業者が許可を取得します)。
注意:1回に提供する食事数が20食未満の小規模施設では届出不要とされるケースもあります。詳細は管轄の保健所に必ずご確認ください。
③ 施設種別ごとの人員配置基準への対応
介護施設の種類によっては、「調理員」の配置が人員配置基準として定められている場合があります。ここで注意が必要なのは、「調理員」は職種の区分であり、調理師免許の保有が必須条件とはなっていない点です。
施設種別ごとの詳細は都道府県の条例や、指定権者(都道府県・市町村)の解釈によって異なる場合があるため、開設・運営にあたっては管轄の行政窓口に確認することが確実です。
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「調理師がいない」問題の実際的な解決策
法律上は調理師免許が必須でないとしても、「実際に調理師なしでどうやって食事を準備するのか」という現実的な課題は残ります。主に3つのアプローチがあります。
アプローチ① スタッフが食品衛生責任者の資格を取得し、調理を担当
管理者や介護スタッフが食品衛生責任者の養成講習会を受講し、食事の準備を担当するパターンです。
小規模施設ではよく見られる対応ですが、介護業務と調理業務の兼務はスタッフへの負担が大きく、どちらの質も下がるリスクがあります。人手に余裕があれば選択肢になりますが、長期的な解決策としては難しい側面もあります。
アプローチ② 給食委託業者に調理業務をアウトソーシング
外部の給食委託会社と契約し、調理・配食業務をまるごと委託する方法です。委託先の事業者が必要な許可・資格を持っているため、自施設側での調理師配置や営業許可の取得が不要になります。
ただし、委託費用が高くなりやすく、小規模施設では費用対効果が合わないケースもあります。
アプローチ③ 完全調理済みチルド食材の活用(最もおすすめ)
近年、介護施設向けに急速に広がっているのが、管理栄養士監修のもと完全に調理されたチルド総菜を施設に届けてもらい、スタッフが湯煎や電子レンジで温めて盛り付けるだけで提供する方法です。
▷ 施設側に求められる調理行為が「温める」だけ
完全調理済みのチルド食材は、加熱・調理の工程がすでに完了した状態で届きます。施設スタッフが行うのは湯煎や電子レンジでの温めと、お皿への盛り付けのみ。包丁を使った調理や火を使った本格的な調理は一切不要です。
▷ 調理の専門知識・経験が不要
温め方はマニュアル化されており、介護スタッフや事務スタッフでも対応できます。調理の技術や知識がなくても、誰でも同じクオリティで食事を提供できます。
▷ 献立作成・食材調達・衛生管理の手間が大幅に削減
献立は管理栄養士が監修したものが用意されており、自施設で考える必要がありません。食材の仕入れ・在庫管理・廃棄ロスの心配もなくなります。
▷ 食品衛生責任者の設置は引き続き必要
チルド食材を活用する場合でも、施設側での食品衛生責任者の設置は必要です。温めや盛り付けも「食品の取扱い」に該当するためです。管理者や担当スタッフが養成講習を受講しておきましょう。
「合法的に」食事提供するためのチェックリスト
調理師がいない状態で食事提供を行う際に確認すべき事項をまとめます。
- ☑ 食品衛生責任者を1名以上設置しているか → 養成講習会を受講したスタッフを選任する
- ☑ 必要に応じて保健所への営業届出を行っているか → 1日20食以上提供する場合は届出が必要(詳細は保健所へ確認)
- ☑ 施設種別の人員配置基準を満たしているか → 「調理員」の配置が求められる施設形態の場合は確認が必要
- ☑ HACCPに沿った衛生管理を実施しているか → 令和3年6月より、食品を取り扱う施設はHACCPに沿った衛生管理が義務化
- ☑ 食事の温度管理・提供記録をつけているか → 食中毒リスクの低減と万が一の際の記録のために必要
まとめ
「調理師がいないと食事提供できない」は誤解です。法律上、調理師免許は食事提供の必須要件ではなく、本当に必要なのは食品衛生責任者の設置と保健所への届出などの手続きです。
食品衛生責任者は、調理師や栄養士の資格がなくても、1日程度の養成講習会を受講するだけで取得できます。施設の管理者やスタッフが受講することで、法律上の要件を満たすことが可能です。
そのうえで、完全調理済みチルド食材を活用することで、調理の専門知識がないスタッフでも安全・安定的に食事提供を続けられる環境を整えることができます。
「調理師がいない」という状況に悩んでいる施設の方は、ぜひ一度、食事提供の仕組み全体を見直してみてください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスを行うものではありません。施設の種別・規模・所在地によって適用される基準が異なる場合があります。具体的な手続きや要件については、必ず管轄の保健所や行政窓口にご確認ください。
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