はじめに

「他の施設は1食いくらで提供しているのか」「自施設の食事原価は適正なのか」「食費が赤字になっているような気がするが、どこから手をつければよいかわからない」──こうした疑問を持ちながらも、正確な数字を把握できていない施設は少なくありません。

食事原価を正確に把握することは、施設経営の健全性を保つうえで欠かせません。どこにコストがかかっているかがわからなければ、改善策を講じることもできません。

この記事では、介護施設の1食あたりの食事原価の全国平均データと、自施設での計算方法、そして原価を下げるための具体的なアプローチを解説します。

介護施設の食費コストの全国データ

まず、業界全体の数字を把握しましょう。自施設の数字と比較するための基準になります。

全国老人福祉施設協議会の調査(2025年6月)によると、特別養護老人ホームにおける利用者1人1日あたりの食費は 1,787.6円 です。

項目金額(1人1日あたり)割合
給食材料費972.8円約54%
調理員人件費814.8円約46%
合計1,787.6円100%

この内訳で特に注目すべきは、調理員人件費が全体の約46%を占めているという点です。「食費コスト=食材費」というイメージを持っている方も多いですが、実際は人件費がほぼ同等のウェイトを持っています。コスト削減を考えるとき、食材費だけに目を向けていては改善効果が限られる理由がここにあります。

1日3食で割ると、1食あたりの平均コストは約 596円 となります。ただしこれは特養の平均であり、施設形態・規模・地域・体制によって大きく異なります。

なぜ食事原価の把握が重要なのか

食事原価を把握することで、以下のことが可能になります。

① 「赤字になっているか」を正確に把握できる
介護保険制度の食費基準費用額(1,445円/日・2024年度)と実際のコストを比較することで、施設として赤字になっているかどうかを数字で確認できます。前述の全国平均(1,787.6円)は基準費用額を約342円上回っており、多くの施設で食費関連の赤字が発生していることがわかります。

② どのコスト項目に改善余地があるかが見える
食材費・人件費・光熱費・廃棄ロスのどこに問題があるのかを特定しなければ、的外れな対策になります。

③ 外部食材活用などの改善効果を数値で検証できる
「チルド食材に切り替えたら1食あたりのコストはどう変わったか」という効果測定が可能になります。

1食あたりの食事原価の計算方法

自施設の食事原価を正確に計算する手順を解説します。

STEP1:月間の食事関連コストをすべて洗い出す

まず、食事提供に関わるすべてのコストを月単位で集計します。

コスト項目内容
食材費月間の食材仕入れ総額(廃棄ロスも含む)
調理員人件費調理スタッフの給与・時給×時間・社会保険料等
光熱費(厨房分)ガス・電気・水道のうち厨房で使用する概算分
消耗品費調理器具・衛生用品・ラップ・手袋等
その他食器の修繕・交換費用等

よくある見落としは「光熱費の厨房分」と「廃棄ロス分の食材費」です。実際に廃棄した食材のコストも食材費に含まれていることを忘れないようにしましょう。

STEP2:月間の提供食数を集計する

月間の実際の提供食数(欠食・入院等で実際に提供しなかった分は除く)を集計します。

STEP3:1食あたりの原価を計算する

月間コスト合計 ÷ 月間提供食数 = 1食あたりの原価

計算例で確認する

以下は仮定の計算例です(実際の数字は施設の規模・体制・地域によって大きく異なります)。

項目月間コスト(仮定)
食材費30万円
調理パート2名の人件費30万円
光熱費(厨房分)3万円
消耗品費2万円
合計65万円

月間提供食数:30名×3食×30日=2,700食
1食あたり原価:65万円÷2,700食= 約241円

この例では1食241円ですが、30名という小規模施設では人件費の固定費比率が高くなりがちで、規模が小さいほど1食あたりのコストが高くなる傾向があります。

施設規模別の特徴と原価の傾向

施設規模によって1食あたりの原価は大きく変わります。

小規模施設(定員30名以下)

  • 調理スタッフの人件費が固定費として重くなりやすい
  • 食材を業務用でまとめ買いしにくく、単価が割高になりやすい
  • 廃棄ロスが相対的に大きくなりやすい

中〜大規模施設(定員50名以上)

  • 調理スタッフの人件費を食数で割ると1食あたりの固定費が下がる
  • まとめ買いによる仕入れ単価の交渉力が高まる
  • ただし、人件費の絶対額は大きくなる

小規模施設ほど「食事原価が高くなりやすい構造」を持っており、外部食材の活用が経営的に合理的な選択肢になりやすいと言えます。

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食費の基準費用額との関係

介護保険制度では、利用者が施設に支払う食費の「基準費用額」として 1日1,445円 が設定されています(2024年度時点)。

前述の全国平均コスト(1,787.6円)と比較すると、差額は約 342円/人/日 です。定員80名の特養で試算すると、年間では約1,000万円の赤字になるという全国老施協の試算もあります。

多くの施設が食費を基準費用額と同額の1,445円に設定しており(全国老施協調査で約54%)、コスト増を価格転嫁できていない厳しい実態があります。

原価を下げるための4つのアプローチ

▷ アプローチ①|食材廃棄ロスを徹底的に減らす
廃棄ロスは「支払ったのに使わなかったコスト」です。1食単位での発注が可能なチルド食材サービスを活用することで、在庫を余らせるリスクそのものをなくせます。

▷ アプローチ②|人件費の構造を見直す
食費コストの約46%を占める人件費は、改善インパクトが最も大きい項目です。土日・夜勤帯など人件費が高くつきやすい時間帯だけ外部食材に切り替えることで、専任調理スタッフの配置時間を減らせます。

▷ アプローチ③|外部食材との部分的な組み合わせ(ハイブリッド運営)
全食を自施設調理するのではなく、朝食・土日・夕食など特定の食事だけ外部食材を活用するハイブリッド型にすることで、人件費・廃棄ロスを削減しながら手作りも維持できます。

▷ アプローチ④|光熱費の削減
厨房の稼働時間を減らすことで光熱費も削減できます。完全調理済み食材を活用することで、大型調理設備の稼働時間が短縮され、電気・ガス代の削減につながります。

まとめ

介護施設の1食あたり原価は、食材費・人件費・光熱費・消耗品費を月間で合算し、提供食数で割ることで計算できます。全国平均(1食約596円)と比較することで、自施設のコスト構造の問題点が見えてきます。

特に人件費が食費全体の約46%を占めている事実を踏まえると、食材費の削減だけでなく「人件費の構造的な見直し」が原価改善の鍵になります。完全調理済みチルド食材の活用は、人件費・廃棄ロス・光熱費を同時に見直せる有効な手段の一つです。

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